その128 知られていない「とりあえず地域包括」

先日、60歳になる先輩とお話しする機会がありました。先輩は自宅で仕事をするイラストレーター・マンガ家で、昔介護の仕事を経験したこともあり、何かと話の合う人なのです。

その先輩が、悩みがあるといいます。
「両親がどうも、ボケてきたのか…」
「体は元気だけど、記憶力や注意力が怪しくなって」
「鍵やガスの元栓が非常に怖い」
ははあ、なるほど。60歳の先輩のご両親ならもう80以上。それはそれは心配でありましょう。ご家族で他に支援者はいないのでしょうか?また介護サービスはどうしていますか?と聞くと、
「それがまだ相談していない」
と言われるのです。当方、少々びっくりしてしまいました。

先輩は介護職員の経験者なのです。それが、どうして地域包括支援センターに相談しないのでしょうか?
そこを聞いてみると、
「いや、ケアマネさんに入ってもらう段階かどうか」
「認知症かどうかもまだわからないし」
「体は元気だから、人を頼るというのも」
「仕事に集中できなくて困るが、うちは近いからちょくちょく見に行っている」
…などなど、答えが返ってきました。

つまり先輩は、「地域包括支援センター」を知らない…あるいは忘れている…のです。

このコーナーを読まれる方ならご存知でしょうが、念のため書きます。「地域包括支援センター」とは介護で困った時にとにかく相談を受け付ける窓口です。条件は

・その地域に住んでいる、65歳以上の高齢者の介護に困っている方

というだけ。
認知症の認定を医師から受ける必要があるとか、体に不自由がないとダメとか、家が近いなら家族で面倒見なさいとか、そんな条件は一切ありません。介護に悩み、仕事に支障が出ている先輩などはドンピシャリの対象者です。

そこで当方「地域包括にご相談は?」というと、先輩は
「いやー、まだお金をかける段階じゃ…」と仰る。
いや無料無料(^_^;)地域包括への相談は無料。
「うーん、父さんそういうの行きたがらないなあ…」
本人が来なくても相談者だけで行っていいのです(^_^;)
「まだ何か起こったわけじゃないし、相談と言っても…」
起こってからじゃ遅いから、無料相談やっとるのです(^_^;)

当方、先輩とお話しながらずっと苦笑い(^_^;)(^_^;)(^_^;)状態でした…そして、フツフツと怒りのような感情も沸いて参りました。

もちろん先輩に対してではありません。
「地域包括支援センター」情報の、周知徹底の甘さにです。

「介護のことで困ったら、とにかく地域包括に行こう」これは当方の最初に出した本『ボクは介護職員一年生』(宝島社)の結論として書いた、一番初めの、かつ重要な情報なのに。

(『ボクは介護職員一年生』(宝島社)の一部です。介護のことで困ったらとにかく相談に行けば、まず話を聞いてもらえるし、必要な部署につなげる専門家がおります。)

だいたい介護は保険事業、国民の皆さんからお金を預かってやっていることなのに、相談窓口すら知られていないとはどういう了見なのでしょう。忸怩たる思いであります。
火事を見たら消防署、犯罪を見たら警察、ケガ人を見たら救急車。知らない人はありません。みな国でやっている公的事業・保険事業であり、利用は当然の権利。通報に至っては義務ですらあります。

それが同じ保険事業である介護の相談だけは、
・窓口も知られていない。
・行っていいか迷う。
・お金がかかるんじゃないかと思われている。
のは非常に無念といいますか、申し訳ないような…。

地域包括支援センターが登場したのは2005年だそうですが、16年も経って「誰でも無料相談できる」がまだ知られていないとは。当方多少ショックを受けましたが。

事実は事実として、「当たり前」と思わずにもっと口に出していこうと思いました。

お読みの皆さんの周りにも、介護で悩んでいる…のに地域包括に行っていない方があると思います。当然知っていると思わず、「地域包括は行った?」と聞いてみて下さい…<(_ _)>