その232 「梅はその日の難逃れ」

 この諺、どの程度メジャーなものなのでしょうか?

 筆者が勤めたグループホームに、梅干しを見ると毎回、こう仰る入居者さんがありました。
 その方が「梅はその日の…」と口にされると、他の入居者さんからも「難逃れ!」「朝茶もその日の難逃れ!」などの合いの手が入り、場が和んだことを懐かしく思い出します。

 筆者も毎日のようにこの言葉を聞いていたせいで、すっかり覚えてしまいました。いえ覚えるだけでなく、自宅でも梅を見ると「難逃れ、難逃れ…」と口走るようになってしまいました(笑)。
 初めて聞いてから十年以上の歳月が流れましたが、いまも口走ってしまう…どころか、梅干しが食卓にないと不安な気分になるほどに心に沁み込んでおります。

 さて改めて意味を調べてみると、以下のようなことでした。

 「朝に梅干しを食べると、その日一日、災難をまぬがれる」の意。むかしむかし、旅人が出先で病気をしないように常に梅干しを持ち歩き、食したことに由来するそうです。
 ちなみに難(7)が去る(30)のごろ合わせで7月30日は「梅干しの日」だとか。ちょうど今時期の言葉なんですね。

 たしかに食中毒や夏バテの多いこの時期、梅干しはいつも以上に頼りになる健康食品ですね!

 梅干しの健康効果についてはもうたくさんの情報がありますし、筆者も以前書きました。

その171 持ち味を変えないで

 ここではひとつだけ、夏バテ、夏の食欲不振について触れておきたいと思います。

 夏バテ・食欲不振と聞けば「あるある」で直感的にわかるのですが、ただ「なぜ暑くなると食欲がなくなるのか?」と改めて調べてみるとなかなか説明が見つからないものです。原因がわからないと対策が立てづらいですよね。
 試しにいまネットで検索をしてみたら、「暑さによる体力消耗が食欲不振を助長する」…などと、原因なんだか結果なんだかよくわからない(^^;)説明がなされておりましたw。

 さらに詳しく調べれば原因は酷暑による胃腸の機能低下であったり、冷たいものの食べ過ぎによる腸内環境の悪化であったり、自律神経の乱れであったり、水分不足による電解質異常であったり、一言で言えないいろいろな条件が重なっているのが実情なようです。

 なかでも近年よく言われるのが「塩分不足」ですね。

 夏の脱水には水分だけでなく塩分を、というのはもはや常識になりました。経口補水液にも塩分は含まれております。いつもより多く汗をかく夏、塩分不足で食欲低下を招く可能性は確かに高いでしょう。

 蒸し暑い朝。
 食欲もわかないのですが、とりあえず水を飲みながら台所のテーブルを見ると梅干しのビンがあります。そこで「梅はその日の難逃れ…」とつぶやきながら、とにかく一粒食べてみます。塩分、ミネラルなどが体に入ってきます。

 するとやっぱり目は覚めるし、口の中はしょっぱいし、水だけじゃなくなにかお腹にいれなきゃな、という気になってまいりますね。

 このように料理する気も起きないときでもとりあえず口に放り込める、常温で台所に置きっぱなしにできる梅干しは確かに頼れる存在です。

 これは理屈というより、多分に習慣的なものですが。筆者は梅干しを見ると「梅はその日の難逃れ」という、あの入居者さんのお声が脳内再生されるのですw。
 
 ただこの習慣のおかげで、この十数年夏バテで倒れることもなく、無事に過ごせてきたのは感謝の至りです。
 筆者にとってこの諺は、単に諺というだけでなく、日常生活に実際に食い込んでおります。

 …ともすれば理屈めかした研修よりも、深く心に残っている諺です。

(余談)
 途中でご紹介した過去コラムの外にも、いろいろな場面で梅の話を書いておりましたw。本当に頼りになりますね、梅干し。