その166 「支援」と「おせっかい」の違いは…

今回はグッと砕けて、最新の流行について考えてみたいと思いますw。

今年の、ついここ半年ほどですが、いわゆる「AIイラスト」が一般的になってきました。人工知能、AIが、今まで創造的分野でコンピュータにはマネができないと言われていた「イラスト(絵)」を自動生成するということで大変話題になっております。またそれが高度なデジタル知識もなく、「山」「空」「冬」などのキーワードを入れるだけでオリジナル・イラストができてしまうというのですからこれは驚きです。

細かい設定では画家の誰それ、イラストレーターの誰それのようなタッチで…と指定できるそうです。有名画家でなくとも、たとえば自分の描いた絵を何枚かソフトに覚えさせれば、特徴やクセをつかんで「自分が描いたような」イラストを作ることも可能だそうです。

著作権や他人が再利用する場合の取り決めについてはまだまだこれから法の整備が必要でしょうが、とても面白い、可能性を感じる分野ですね。技術の進歩はもちろんのこと、膨大な情報が共有されている「インターネット」の果てしなさにも驚かされますが…。

また同時に、「既存のイラストレーターの作品と同列に扱っていいのか」「絵を描く人の仕事を奪うのではないか」「これから先、オリジナリティのある絵が生まれないのでは」などなど人道的、社会的、果ては芸術的な問題も叫ばれているようです。

筆者は一応、漫画家ですので、この問題を興味深く見ております。そして、ここには介護で教わった「支援とおせっかいの違い」が如実に表れているなあ…と感じている次第です。
それは、このAIイラストが「代行」なのか「支援」なのかで問題の質が違うと思うからです。

筆者が介護職員になりたての頃、先輩から口を酸っぱくして言われたのがまさにこの「支援とおせっかいの違い」でした。

介護職は「支援職」です。利用者さんが何かしたいことがある、でも病気や障害があってできない…支援職はその「できない」ところを手伝うのであって、それ以外は余計なおせっかいである。そこを間違えてはいけないと何度も教わりました。

たとえばトイレに行きたいけどトイレまで歩けない人がいる。じゃあ「車イスでトイレまで連れていき、便座に座らせ、服も脱がして」やればいいのかというと、一律にそうではありません。
自分では歩けないだけで支えれば歩けるかもしれない。ズボンを脱ぐ、便座に座ることくらいはご自身で出来るかもしれない。利用者さんの状態は人それぞれです。

その方は何ができて何ができないのか、何より「何を手伝ってほしいと思っているのか」まずそれが分からねば「支援」はできません。それ以上のことを勝手に手伝えば、今できていることすらできなくなってしまう。それは「代行」であって支援ではないと何度も教わりました。

むろん介護現場というのはいつも忙しいものです(^^;)。多く手伝った方が早く済むという考えがつい浮かびます。しかしそれは職員の都合であって利用者さんの想いではありませんで…ここを忘れたら「支援職」ではなくなってしまいますね。

これらのことから筆者が思うに、AIイラストがどんなに発達しても「絵を描く人」はいなくならないと思います。それは「絵を描く人」は「絵を描くのが楽しい」から描くので、「AIに代わりに描いてほしい」とは思っていないからです。

もし絵を描くのに「これができたら…」「ここだけができない…」そういう悩みがあって、それを支えるもの(道具、知識、技術)があったとしたらそれは使うでしょう。が、あくまで目的は「絵を描くこと」。「絵を描いてもらうこと」ではありません。これを手伝うのは「支援」といえます。

一方、まったく「絵を描きたい」とは思わなくても何らかの理由で「絵が欲しい」「絵が要る」という人もいるでしょう。自分では描かないけど法律的に他人のを使う訳にはいかない、など。そういう人は「絵を描いてもらう」のが目的なのですから「代行」がいいわけです。人間でもAIでも、時間やコストなど条件が合う方を使えばいい。そういう意味で新しい技術で助かる人も大いにあると思います。

…こう問題を整理してみると、今まで人がやっていたことをコンピュータが代行するという事態はいくつもあったわけで、別に新しい問題というほどでもなさそうですね。

ただ。ただ筆者が思うのは(これは筆者がマンガを描くからか、はたまた介護職員だったからかはわかりませんが)…

「絵」というのはそんなに「代行」してもらってまで必要なものなのか(^^;)とはつい考えてしまいます。たとえば「掃除」をしてくれるロボットや「食器洗い」をしてくれる機械、これが必要な人がいるのはわかるのですが…。
「絵」はいまでも著作権フリーで使えるものがいくつもありますし…。AIイラストが切実に必要な人って、どんな人なんだろう。そこまでは想像が及びませんでした<(_ _)>

(追記)
今はイラストでもマンガでも「パソコンでチョイチョイっと描けるんでしょう?」と思っている方があるようですが…

筆者は道具が変わっただけで、手間はそんなに変わっていないのです(笑)。