その53 リビングウィルの用紙
すこし私事を…。
実家にいる姉から画像つきのメールが届き、「これ、どこにチェックしたらいいの?」と聞かれました。
介護施設に入所し、その後入院していた母についての書類のようでした。
「あ、ついにきたか」と思いました。
「リビングウィル」の確認用紙です。
介護現場では何度も見ましたが、介護家族として見るのは初めてでした。
リビングウィルとは?
直訳で「生前の意思」。具体的には、終末期医療における事前指示書のことです。
もっと具体的に言えば、「回復の見込みがない状態になったら、どうする?人工呼吸器、胃ろう、点滴、あらゆる手段を使って命を延ばすか。それとも、延命はせず自然にまかせるか。今のうち、選んでおいてくれ」ということです。
介護現場にいたとき、これについては厳しく注意と指導をうけました。
たとえば入居者のAさんが急に倒れて救急車で運ばれている最中。救急車の中で、救急隊員さんやお医者さんが真剣かつ切迫したマナザシで付き添いの自分を振り返り「非常に危険な状態です!高度救急救命が必要です、いいですね!」と言われたら…?
さて、□に入る返事の正解はなんでしょうか?
「もう、何でもいいからとにかく助けてください!やって下さい!」と言うのが人情というものでしょう。命あっての物種、焦り、パニックになっても不思議ではありません。しかし、上記の対応は「介護職員」としては完全にアウト、と教わりました。
Aさん自身の意思が「あらゆる手段を使って生き延びたい」なのか「回復の見込みがないなら自然にその時を迎えたい」なのか。それを無視して介護職員が「何でもいいから死なせないで」と言うわけにはいきません。
酷な話ですが、いちど生命維持装置につながれてしまったら、はずすことは「死なせる」ことです。その状態では…「はずしてくれ」というのは、仮に本人の希望であったとしても、家族にとって辛すぎる選択でしょう。
そんなことにならないように、本人に意思確認をする。できないならせめて家族に連絡する。もっと言えば急に電話がつながらないときのことを考え「事前に確認し書類に残しておく」のが最も確実です。
…「つまりそういう書類だよ」と私は姉に伝えました。
その後、母が以前から言っていたこと。同居していた長女から聞いた母の様子、言動。入居している施設の職員さんから聞いた話などなど、普段から連絡を取り合っていたことを姉弟で確認しあい、チェックを入れ、病院と介護施設に提出しました。
そして、施設や病院との連絡係をしている私は、あまりしたくない確認を、最後に二人の姉に念押ししなければなりませんでした。
「決めたとおり、病院からもしもの電話があったら『延命はしないでください』って言うよ」
さて、その時冷静でいられるかどうか。あまり自信はありませんが…そのための書類ですからね。