その28 イグナーツ・ゼンメルワイス

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今日、最後に手を洗ったのはいつですか?

今年もインフルエンザ大流行。感染源を目、鼻、口に入れないこと、最高の予防法は「手洗い」です。トイレ、調理、食事の際はは手を洗う。目や鼻を指でこすらない。いまや常識ですね。

しかし意外なことに、「手を洗う」習慣は世界的には珍しいそうです。日本ユニセフは10月15日を「世界手洗いの日」と定め、手洗いの重要性を発信しています。日本自慢の習慣なんですね。

歴史的に見ると、手洗いがないのは水道がない発展途上国に限りません。ヨーロッパで手洗いの重要性にはじめて気がついたのは、ハンガリー出身の医師イグナーツ・ゼンメルワイスといわれています。ゼンメルワイスは産褥熱の研究をするうち「どうも医者の手から病気がうつるのではないか」と気がつきました(1827年)。驚くべきことに当時病院には消毒の習慣がなく、手術道具さえ使いまわしていたそうです。彼は手洗い、道具の消毒を徹底し、院内感染をほぼ全滅にまで押さえ込みました。

・・・と、ここまではいいのですが大変なのはこの後。消毒説はこのカンペキな成果にも関わらず当時の医者にはほとんど受け入れられませんでした。間違った医療知識に加え「医者が感染源だった」と認めたくない関係者たちからゼンメルワイスの主張は無視され、彼は精神病院で寂しい最期を遂げます。死因は彼一生の宿敵「感染性の敗血症」だったということです。

手洗いくらい当たり前な日本の感覚からすると、悲劇と言うか喜劇と言うかなんとも大げさな話ではあります。ヨーロッパで手洗いが定着するまで、さらに「消毒の父」ジョゼフ・リスター、「白衣の天使」ナイチンゲールなどの出現を待たねばなりませんでした。たった150年前まで、手洗いがないために苦しんだ人は一体何万人になることでしょう?

現代、介護職員さんがこまめに手を洗い(1作業1手洗い)調理器具を消毒するのも、地味ながら重要な職務。その効果は絶大であります。

手洗いの国、自慢の習慣で今年も感染症を退けていきたいですね。

参考文献:
『世界史を変えた薬』佐藤健太郎 講談社現代新書
『まんが医学の歴史』茨木保 医学書院

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追記

それにしても近世ヨーロッパで手術道具すら消毒していなかった、というのは本当に驚きです(汗)。いくら細菌・ウイルスの知識はなかったにせよ、「なんとなくバッチい」という感覚はなかったのでしょうか。ナゾです・・・。