その06 お近く用の眼鏡

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「ついに言われた・・・」友人から深刻な声で電話がかかってきました。
「なんです?」
「眼鏡の度を調節しに行ったら、お近く用の眼鏡も作ったほうがいいって」
「はあ、作ればいいのでは」
「オマエ、知らないのか!」
友人が言うには、眼鏡屋さんがお近く用の眼鏡といったらそれは老眼鏡のことだそうな。ハッキリ「老眼」というと嫌な顔をされるので最近はこういうそうです。友人は39歳にして老眼を宣言されたことにショックを受けたそうで。

「おきのどくさま」と電話を切った後、お近く用の眼鏡、との言い回しについて考えてしまいました。老眼は病気でなく、自然な老化現象。ま、嬉しくはないですが、隠したり言い換えたりするほどのことかなあ、と。

ここのところ「老人」という文字すら余り目にしません。新聞では「高齢者が」、公共の場では「シルバー」「シニア」等と言い換える。老眼鏡は「リーディンググラス」とも言うそうです。読書眼鏡、とでも訳すんでしょうか?同じ自然現象である加齢臭も「ミドルアロマ」とか呼んでくれたらいいのに。

世はアンチエイジングの時代、「老」の字すらも隠しているような気がします。しかし老眼、加齢臭、白髪、その他自然な老化現象まで忌み嫌うのは行きすぎだと思いますが、いかがでしょう。もっと老化に鷹揚であっていいのではないでしょうか。どうせ年はとるのですから。(個人的に若さを保ちたいと努力するのはもちろん自由です。)

介護職員をしていると、どうもそういう言葉が目に付いてしまいます。化粧品や健康食品のCMからは「老いたくない!」という叫びが聞こえてきそうです。元気でいたい、キレイでありたいは当然として、年をとることもまた同時に当然と思うほうが自然です。

施設の入居者さんは「老人」ですが、別に普通に暮らしています。老いを覆い隠すより、「老人になったときどういう自分でありたいか」のほうが大事だ、入居者さんたちを見ているとそう思えてきます。

実は今こうしてキーを叩いている私の視力もだいぶアレなのですが、眼鏡屋さんに行くことになったら普通に「老眼鏡下さい!」と言うことにします(笑)。

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