大川原 伸二郎

ある日私が伺ったのは、末期がんに侵され、骨まで転移が進んでいたご利用者のお宅。いつ何が起きてもおかしくない状況でしたが、それでもご家族は湯船につかり気持ちよくなってもらいたいと願っていました。ご利用者がどんな状態であっても、入浴したいという希望があれば可能な限りお応えする。これが、私たちの大切にしている想い。私、看護師、ヘルパーの3人で細心の注意を払いながら、入浴介助を開始しました。
ご利用者は、動かせば今にも骨が折れてしまいそうな状態。私たちもご家族も、一瞬たりとも気を抜けない緊迫した状況の中で、なんとか湯船に身体を運び、入浴していただきました。すると、言葉を発することのできないご利用者の表情が、柔らかくなっていったのです。ご家族は本当に嬉しそうでしたし、緊張状態だった私たちの心も、ふと力が抜け和やかな気持ちになりました。

介護の仕事は、社会貢献と言ってしまえば美しいかもしれませんが、現実は甘くありません。ご利用者の多くは要介護度の高い方や終末期の方ですから、常に緊張感を持って仕事に取り組むことが求められます。「湯船につかりたい」「身体を綺麗にしてあげたい」ご利用者やご家族の気持ちを汲み取り支援していくことが、私たち訪問入浴スタッフの存在意義であり、やりがいでもあるのです。
私自身も、この仕事を始めた20数年前は、訪問入浴という仕事があることすら知りませんでした。当時はトラックの運転手をしていたので、車の運転は得意だしやってみるか、そんな安易な気持ちでした。しかし実際に多くのご利用者と出会う中で、何年も入浴できずにいる方の多さを目の当たりにし、訪問入浴サービスへの想いが日に日に強くなっていきました。

入浴をするという行為は、日本人ならではの素晴らしい文化です。特にご年配の方であれば、入浴への愛着も一段と強いことでしょう。しかし、私たちがサービスを提供できているのはほんの一部。日本中には、まだまだ私たちの手を必要としている方がいらっしゃいます。一人でも多くの方に、一日でも長く入浴を楽しんでもらいたい。そのために、私たちは今日もご利用者のお宅へ向かっています。

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